長引く咳には原因に合わせた治療が必要です。咳症状が2〜3週間以上続く場合は、医療機関の受診をご検討ください。
長引く咳は、日中の生活に支障をきたすだけでなく、睡眠を妨げることもあり、心身ともに大きな負担となります。特に近年は、咳をすると周囲の視線が気になるという社会的なストレスも加わり、「咳=感染症」といった誤解が不安につながるケースも少なくありません。
咳には、痰を伴う咳、乾いた咳(空咳)など、さまざまなタイプがあり、それぞれ原因が異なります。
このページでは下記のような症状の方に、その原因や対処方法について説明します。
当院の院長は日本呼吸器学会認定の呼吸器専門医です。丁寧な診察と検査を行い、原因に応じた治療をご提案しています。咳でお困りの方は、お気軽にご相談ください。
原因の多くは風邪などのウイルスや細菌による感染症です。発熱、鼻水、喉の痛み、くしゃみなどを伴い、自然に良くなることがほとんどです。ただし、気管支喘息、肺気腫(COPD)、間質性肺炎(かんしつせいはいえん)などの病気がある方では、風邪をきっかけに咳が悪化することがあります。また、ごくまれに重い病気が隠れている場合もあります。
感染症だけでなく、咳喘息やアレルギー・肺の病気などさまざまな要因が関係していることがあります。
感染症以外の病気が原因として考えられます。呼吸器専門医による検査が必要です。
当院に「咳がなかなか治らない」と来院される場合、すでに遷延性咳嗽や慢性咳嗽の段階に入っていることが多いです。咳のタイプや出るタイミングなどには個人差があります。
咳が長引く背景には、いくつかの病気や身体の変化が関係していることがあります。風邪は治ったはずなのに、咳だけが残っているようなときも、放っておかずに医療機関へ相談することが大切です。
気管支喘息の前段階です。呼吸をするときにヒューヒュー・ゼイゼイという音がする喘鳴(ぜんめい)や息苦しさはなく、夜間に悪化する空咳が、長い場合は8週間以上続きます。30-40%が気管支喘息へ移行するとされています。吸入薬治療が有効です。
気管支に慢性的な炎症が起こるアレルギー性の病気です。この炎症によって気管支が過敏になり、狭くなることで「咳・痰」「呼吸困難」「喘鳴(ヒューヒュー・ゼイゼイ
といった呼吸音)」などの症状が現れます。改善と悪化を繰り返し、夜間から早朝に悪化しやすいです。
アトピー素因(アレルギー体質)に由来し、喉のイガイガ感と空咳が続きます。好酸球(こうさんきゅう)が関与し、抗ヒスタミン薬や吸入ステロイドが有効です。
感染症の中には、咳だけが数週間以上続くタイプもあります。代表的なものは以下の通りです。
百日咳菌が原因で、熱は出にくく、強い咳だけが長く続きます。子どもだけでなく大人にも感染し、近年は全国的に流行しています。ワクチン接種(4・5種混合ワクチン)で予防できますが、効果は年数とともに薄れるため、小学校高学年以降の追加接種が推奨されています。(任意)
若い世代によくみられる軽いタイプの肺炎です。発熱よりも咳が目立ち、一般的な肺炎と違い、咳が主症状になる場合があります。
日本は結核の低蔓延国となり、以前より少なくなっています。
咳が3週間以上続き、痰、微熱、体重減少などの症状があり、空気感染します。
高齢者や免疫抑制の使用など結核感染のリスクが高い場合は、胸部X線写真やCT検査、喀痰検査等を行い、結核の除外を行う必要があります。
抗酸菌でのうち結核菌とらい菌以外の菌による感染症です。結核とは異なり、人から人への感染は基本的に起きず、水周りや土壌などどこにでもいます。
症状のない場合も多く、健康診断を通じて受診されることがあります。
風邪やインフルエンザ、新型コロナウイルスなどの感染症の感染後も気道(空気の通り道)の粘膜の過敏状態が続くことで、少しの刺激でも空咳が誘発されます。3週間以上続きますが、多くは自然に良くなっていきます。
胃酸の逆流による刺激により、咳反射が起こります。特に横になったとき(就寝中)や食後に咳が出やすい傾向があります。
機能性ディスペプシアとは、上腹部の症状(痛み・膨満感・早期飽満感など)があるにもかかわらず、明らかな器質的疾患が認められない状態です。
鼻水が喉の奥に流れ落ちることで、咳反射を誘発します。副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎に伴うことが多いです。
感染が治った後にも、空咳が数週間〜数か月にわたり続きます。画像検査では、すりガラス陰影や器質化陰影といったコロナ肺炎のなごりが長く残存することがあります。また、ブレインフォグや倦怠感などを伴うこともあります。
長年の喫煙が原因となり、気管や肺(肺胞*1)が破壊されて炎症を起こすことで、呼吸機能が低下する病気です。痰と息切れを伴う咳が慢性化します。
*1肺胞:肺の中にあり、毛細血管が網目のようになった小さな袋で、ブドウの房のようにたくさん集まっている組織。空気中の酸素と血液中の二酸化炭素を交換する重要な役割を担う。
さまざまな原因により肺胞に炎症が起きて硬くなり(線維化)、ガス交換ができなくなる病気です。空咳や、進行すると呼吸困難を伴います。また、経過中、急激に症状が悪化することがあります。
炎症により気管支が拡張して痰を伴う咳が長引きます。拡張した部分に細菌やカビが増殖することで、さらに慢性的な炎症を起こし、感染を繰り返します。再感染により症状が悪化するため、継続的な治療が必要です。
眠っている間に何度も呼吸が止まる病気です。睡眠中に気道が繰り返し閉塞する(ふさがる)ことで炎症が続き、喉や気道の神経が敏感になり、咳が出やすくなります。そのため、寝ている間に咳で目が覚めたり、朝起きたときに咳が出たりすることがあります。
咳の原因を特定するため、以下のような検査を組み合わせ診断します。
咳のタイプ(乾いた咳・痰のある咳)、持続期間、痰の有無、生活環境、持病、服薬状況などについてお伺いします。特に、「痰や鼻炎症状の有無」「どのタイミングで悪化するか」「聴診でゼイゼイ・ヒューヒューという音がするか」は、診断に重要な情報となります。
問診とともに基本となる検査です。肺に異常な影がないかを確認することで、肺炎や肺結核、肺がん、間質性肺炎などの診断に役立ちます。
X線を用いて身体の断面を撮影する検査です。胸部X線検査で異常が見つかった場合や、肺気腫(COPD)・早期肺がんなど胸部X線検査では判別しにくい病気が疑われる際の精密検査として実施します。当院でもCT検査機器を完備しているので、肺がん、肺結核、間質性肺炎、肺気腫(COPD)などの異常所見をその場で確認できます。
白血球、好酸球、IgE値などを測定し、炎症やアレルギーの有無を評価します。
呼気に含まれる一酸化窒素の濃度を測定することで、気道の炎症状態を調べる検査です。喘息の診断に役立ちます。
「肺活量検査」とも呼ばれる検査です。スパイロメーターという機器を使って、息を吸ったり吐いたりすることで、肺に出入りする空気の量を測定して、肺機能や呼吸能力を調べます。
呼吸抵抗(呼吸したときの空気の通りにくさ)を測定する検査です。喘息、咳喘息や肺気腫(COPD)の診断や治療効果の確認に役立ちます。
咳の治療は、原因や体質によって異なります。原因が明らかな場合は、それに応じた治療を行います。また、咳が出る要因(Treatable traits)を複数抱えている例も少なくなく、総合的な治療が必要になることがあります。
一方で、問診や検査を行っても原因が特定できないケースもあります。そのようなときは「診断的治療」として、薬の反応を見ながら治療方針を調整していきます。
Thorax. 2023;78(Suppl 6):s3-s19.より引用 一部改変
細菌感染の場合には抗菌薬を使用します。
症状を緩和するため、鎮咳薬や去痰薬なども併用します。
漢方薬や鎮咳薬などにより、症状の緩和を行います。
吸入ステロイド、気管支拡張薬を使用します。
抗ヒスタミン薬や吸入ステロイドを使用します。
胃酸の分泌を抑える薬の処方と、食後すぐに横にならないなどの生活習慣のアドバイスを行います。
原因となる鼻炎や副鼻腔炎の治療として、去痰剤や抗ヒスタミン薬などで治療を行います。
咳を和らげる対症療法を中心に行い、慎重に経過を観察します。
禁煙や気管支拡張薬の吸入や併存疾患の治療を行います。
重症度によりマウスピースやCPAP*2による治療や生活習慣の改善による減量を行います。
*2CPAP:機械で圧力をかけた空気を軌道に送り込んで、気道を拡げることで睡眠中の無呼吸を防ぐ治療法
咳は体を守るための正常な反応ですが、長期間続く咳は身体的・心理的な負担を引き起こすことがあります。原因を調べて特定することも重要ですが、このような合併症への対策もとても大切です。
長引く咳には原因に合わせた治療が必要です。咳症状が2〜3週間以上続く場合は、医療機関の受診をご検討ください。
内科でも対応できますが、呼吸器内科の受診が推奨されます。
どちらも空咳だけが続く疾患ですが、以下のような点に違いがあります。項目 咳喘息 アトピー咳嗽 アレルギーとの関連 あり(ない場合もある) あり(好酸球性、アトピー素因あり) 治療薬 吸入ステロイド、気管支拡張薬 抗ヒスタミン薬 喘息への移行 30〜40%程度で移行 ほとんどない
長引く咳は身体的な負担だけでなく、人前で咳をすることに気を使い、精神的な負担となります。
当院では院長を含めた日本呼吸器学会認定専門医が、丁寧にお話を伺い、必要に応じた検査や治療をご提案いたします。「なかなか咳が治らない」と感じたら、どうぞお気軽にご相談ください。